デザイン経営の核心

デザイン経営の核心 1

デザインやマーケティングの業界の中で話題になって出てくる言葉の多くは既に今まである事例をなぞらえ、その言い方を変えつかみとなるヘッドライン表現に変えて何か新しいもののようにメディアに載せて商売のネタに仕立てあげるそのようなパターンがほとんどです。

実際のところは実業で成功した事例を紐解いて学説としてほかの人たちにもそのことを真似られるようにすることで価値を生むノウハウ書籍それらに記述される新しい表現が時として話題になりそうさせているのだと思います。

このデザイン経営という話題のワードも実はそのようなもののひとつであります。デザイン経営と聞くと何か新しい素晴らしいノウハウのように聞こえ見えてしまいますが、それはもう産業革命が起こりシャネルが活躍した1900年台の初頭から普通に存在したファッション産業の事業モデルなのです。それをこのようなデザイン経営という言葉で表現すれば現代的で新しいものに見えてくるわけです。

今で言われるところのデザイン経営の核心はデザインに造詣の深い方が経営陣にいらっしゃり経営判断に物申す組織体制となっていることがその核心の部分でありますが、すでにそれはファッションメーカーにとっては当たり前のことです。

その言葉の魔法は別としてそのものが語られるとき、単に成功事例を観察している実業家ではない学者さん?その実態リアルな5感6感体験がないわけでありますからそれは表層部分に見えているところの机上の紐解きでしかありません。

こういう事例もあります。1950年台から日本にアメリカンカジュアル・トラッドというファッションブームがありました。そのブームを生み出したのがVANヴァンジャケットというブランドメーカーです。トレーナーと呼ばれるアイテムはヴァンジャケットが命名したスエットシャツの商品名でそれが現代では一般語となっています。

ヴァンジャケットには石津謙介さんというカリスマデザイナー経営者がいらっしゃってまさに今話題となっているところのデザイン経営の実践企業でありました。しかしその後ヴァンジャケットは1978年に倒産しトラディショナルファッションメーカーVAN Jacket今やそれはヘリテージとなっています。

という事例のようにデザイン経営の核心はデザインに造詣が深いデザインにこだわりを持つ経営陣が存在し経営判断を行うことですがそれが企業の発展成長の絶対条件であるとはこのような事例を見ても一概には言えないわけであります。逆に一方では倒産の憂き目にあう可能性が高まるともいえるわけです。

我々の業界でもデザイナーが自らモノを作って在庫を積んで販売するメーカー事業を行うと必ずといって失敗するという通説も存在します。それはなぜかということを十分に理解しておかないとデザイン経営を推進することで逆にリスクを生んでしまいかねないということです。

2021-03-05 ©Ichiro Haba
シンプルに美しく暮らす